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緊急リリース 新型コロナウイルス感染症とマンション管理の対応について

公開日:2020/03/10
最終更新日:2020/03/11

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、市中からマスクや消毒液が姿を消し、また多くのイベントが中止となった。理事会だけでなく、区分所有法で定められている年1回開催の総会をどのように運営をしていくべきかなどの相談も増加している。

そんな中、マンション元気ラボの読者でもある弁護士 佐藤 元氏から、「新型コロナウイルス感染症とマンション管理の対応」と題したレポートの投稿があった。法的見解も含めた対応策がわかりやすく整理されているため、管理組合運営の参考にしていただきたい。<マンション元気ラボ 編集部 2020年3月10日>

 

1 はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される状況の中、管理組合の総会の開催の可否等の判断に迷うことがあると思われる。そこで、総会の開催を延期することや総会に理事長が出席できないなど、いくつか想定される問題をまとめた。なお、日々刻々と状況の変化があるため、本稿はあくまでも2020年3月3日時点での情報を基にしたものである。

※ 新型コロナウイルス感染症への企業法務の対応については、三苫裕=黒田裕「<緊急連載>新型コロナウイルス感染症への法務対応⑴ 想定し得る諸問題の概観」商事法務2224号24頁(2020年)がある。

 

2 新型コロナウイルスの現状

コロナウイルスとは、コウモリ、ラクダなど主に動物に感染するウイルスであり、時に人にも感染することがあるもの。新型コロナウイルスについては感染源がいまだわかっていない。

※ 東北医科薬科大学病院感染制御部・仙台東部地区感染対策チーム「新型コロナウイルス感染症市民向け感染予防ハンドブック」2頁(東北医科薬科大学病院HP、第1版、2020年)

現在、新型コロナウイルスに対するワクチンや特別な治療薬はなく、症状に合わせた対症療法がおこなわれている。

※ 東北医科薬科大学病院感染制御部前掲注(2)2頁

一般的には飛沫・接触で感染するとされ、空気感染は起きないと考えられている。閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどがなくても感染を拡大させるリスクがある。飛沫感染は、感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の人がそのウイルスを口や鼻などから吸い込んで感染することをいう。

接触感染とは、感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れるとウイルスがつき、他の人がそれに触れウイルスが手に付着する。その手で口や鼻を触ると粘膜から感染することをいう。

感染後の状況としては、罹患しても軽症、また治癒する例も多いといわれ、重症度としては、致死率が極めて高い感染症ほどではないものの、季節性インフルエンザと比べて高いリスクがあり、特に、高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高いといわれる。

※ 厚生労働省HP

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議によれば、「症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大に重要な役割を果たしてしまっていると考えられる」「若年層は重症化する割合が非常に低く、感染拡大の状況が見えないため、結果として多くの中高年層に感染が進んでいると考えられる」と指摘されている。

※ 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の見解」厚生労働省HP

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

2020年3月1日の厚生労働大臣会見における配布資料では、集団感染の共通点が、「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」であることが指摘されている。

※ 厚生労働省HP

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601720.pdf

具体的には、ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等において、一人の感染者が複数人に感染させた事例として報告されており、屋内の閉鎖的な空間に人と人とが至近距離で、一定時間以上交わることによって、患者集団(クラスター)が発生する可能性が示唆されている。

※ 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の見解」厚生労働省HP

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

なお、2020年3月2日12時時点において全国で221名の患者が報告されている(チャーター便、クルーズ船の患者を除く)。最も多いのは北海道の71名であり、関東圏では、東京は37名、神奈川県は24名、千葉県は13名、栃木県は1名となっている。

※ 厚生労働省HP

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

 

3 総会開催の先送りや延期について

政府の方針としては、イベント等の一律自粛要請を行っているわけではないが、2020年3月に総会(区分所有法に定める「集会」を指す)を予定しているマンションでは、その規模や会場の状況に応じて、開催すべきか否か判断に迷うことがあるだろう(もちろん、沈静化しない限り4月以降の総会においても同様)。

⑴ 総会の開催の先送りについて

総会の開催時期については、標準管理規約42条3項は、「理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後2か月以内に招集しなければならない」と規定している。1月に会計年度が始まる管理組合の場合、3月に総会を開催しなければならないということになり、招集通知をこれから発送するという管理組合があると思われる。

特に、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等を踏まえると、クラスターを発生させる可能性のある会場での総会開催となる管理組合も多いと考えられ、開催を見送るケースも推測される。

標準管理規約42条3項に準拠した規定を持つ管理組合であっても、総会の開催時期を先送りにすることは可能であると考える。通常、天災その他の事由によりその時期に総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられるからである。したがって、今回の新型コロナウイルス感染症の状況が解消された後に総会を招集すればよい。なお、区分所有法34条には、「管理者は、少なくとも毎年1回集会を招集しなければならない」との規定があるが、同規定は、毎年1回招集することを要求するもので、その時期の指定があるものではない。

※ 定時株主総会についても同様の考えがある(法務省「定時株主総会の開催について」同省HP

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

⑵ 総会の延期について

すでに、招集通知を発送し、総会の会日を指定している管理組合については、総会の「延期」が問題になる。

総会の延期については、区分所有法に特に規定がなく、また標準管理規約においてもそれを定めた規定はないが、総会の延期通知を総会の会日の前日までに区分所有者に到達させれば延期できる。

高層住宅法研究会『マンション管理組合総会運営ハンドブック』96頁(大成出版社、第2版、2005年)

延期後の総会の会日は管理規約にしたがって設定する必要があり、例えば標準管理規約43条のように招集通知を会日の2週間前までに発することにしている場合には、延期通知の発送日の2週間以上後に会日を設定しなければならない。

⑶ 総会開催の先送り及び延期の決定機関

総会の開催を先送りすること、及び総会の延期については、理事会において決定することができる。理事会は総会提出議案を定められる以上(標準管理規約54条1項4号)、その時期についても定めることができる。

理事会の招集通知は、会日の2週間前までに発しなければならないが(標準管理規約52条4項、43条1項)、緊急の場合には、「理事及び監事の全員の同意」を得て、5日を下回らない範囲において、招集通知発送の期間を短縮することができる(標準管理規約43条9項)。

もっとも、早期の決断が必要な場合には、電話等により理事及び監事の意向を確認し、総会の先送りや延期を先に決め、延期についてはその通知を発送し、その後、追認的に理事会を招集し理事会決議によって決議することも可能であると解する。

また、新型コロナウイルス感染症の感染のおそれを考えれば、実際に集まって理事会を開催すること自体が望ましくない場合もあると思われる。規約に明文の定めがなくとも、今回のような場合には、書面による持ち回り決議や、インターネット回線を利用した会議、あるいは電話による通話によって理事会決議に変えても、その理事会決議が瑕疵を帯びると解する必要はないと思われる。管理規約が黙示的にそのような権限を理事会に授与しているといえるからである。

なお、理事会の持ち回り決議や電話による理事会決議など管理規約に規定のない議決方法によった場合、念のため後日開催された理事会にて追認決議を経ればより確実であると考える。

 

4 総会を開催する場合

総会を開催する場合もあると思われる。その場合の注意点は、次のとおりである。

⑴ 会場

総会の会場は、感染症の拡大を防ぐよう配慮する必要があるだろう。また、総会の開催時間は可能な限り短くすべきである。インターネット中継を利用したいわゆる「バーチャル総会」を行うには、区分所有者全員の同意(区分所有法45条)が必要になるためこれを利用することは現実的ではない。

※ バーチャル総会については、渡辺晋『マンション管理組合の総会運営の実務 民泊サービスなど最新の課題に対応するために』267頁以下(大成出版社、2018年)参照

⑵ 委任状及び議決権行使書の利用

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の相談・受診の目安を下記のようにしている。

①風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)

②強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合(高齢者や基礎疾患のある人は、この状態が2日以上続く場合)

そのため、このような症状に至っている場合は当然のこと、それに至らずとも心配な人は、総会に出席するのを避けることが考えられる。そのため、管理組合としては、総会への出席を控えたい人がいることを想定して、委任状及び議決権行使書の利用を促すことが考えられる。

⑶ 理事長が欠席する場合

理事長に上記の症状が現れ、罹患の可能性がある場合には、出席を避けるべきであろう。理事長は、総会の議長を務める(標準管理規約42条5項)が、理事長が欠けた場合には、副理事長が議長を務めることになる(標準管理規約39条)。両者が欠けた場合には、総会において、議長を選任する旨の決議をすればよい(区分所有法41条)。

また、委任状の取り扱いにおいては、実務的には、「議長宛」の委任状が使われていることが多いものの、「理事長宛」若しくは、「特定の区分所有者宛」となっている場合は、当該宛名人が欠席した場合には決議に影響することになる点は留意しておきたい。

⑷ 定足数が足りなかった場合

出席者が少なく、委任状・議決権行使書の集まりも悪く、定足数を満たさなかった場合には、流会になる。その場合には、再度総会招集手続を踏むことになるが、その時の状況に合わせて、総会を先送りすることも考えられる(3⑴参照)。

 

5 応急的な修繕工事等を要する場合について

管理組合によっては、応急的な修繕工事等を要する状況にあることもあると思われる。この場合、最新の標準管理規約では、「災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等」(54条1項10号)を理事会において決議できるとしている。同様の規定を有する管理組合であれば、理事会決議によって応急工事を実施できる。(理事会決議の方法については3⑶参照)

このような規定を規約で設けていなくても、新型コロナウイルス感染症のような緊急事態の場合には、黙示的に規約によって同様の授権がされているとみてよいと思われ、理事会による決議が可能であると解する。もっとも、理事会決議により応急工事等を実施した場合には、後日、念のため、総会による追認決議を経ればより確実である。

(弁護士 佐藤 元氏の投稿原稿を一部、リライト及びレイアウト等の変更を施し掲載しております)